夜明け前にアトリエで制作をしていることが多い。
この時間帯は非常に静かなとき。
イヤでも自分と向き合わざるを得ない。
当たり前があることに感謝をし、
流れてゆく一瞬一瞬に対して誠実で素直にあり、
澄んだ空気につつまれる。
だけれど、こうした中でキャンバスに向かっていると、
たまに正気が失われることがある。
澄んだものがなぜかバカバカしく、
誠実であろうとすることが実に偽りだと思えてくる。
つかみどころのない不安が私を靄で囲い、どうしようもない恐怖にみまわれる。
意識するよりも先に目から液体がでてくる。
皮膚からも何かがにじみ出てくる。
仕方ない、今ここにうずくまって何かが過ぎ去るのを待つしかない。
こんなとき、デジタル音はすべて停止させる。
夜明けとともに街が目を覚ます音が聞こえてくる。
すこしずつおかしな鼓動が落ち着く。
平常な自分と紙一重のポジションに、
得体の知れない凶器をもった弱々しい自分がいる。
それを自覚したところで、脱力する。
散らかした筆とパレットをすみやかに整えて、
朝の準備を開始する。